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「死刑」にまつわる2つのデータをもとに論点を探ってみる

小石 勝朗 ( マガジン9 2015年04月08日)より無断転載

 死刑が確定していた元プロボクサー袴田巖さん(79歳)に静岡地裁が再審(裁判のやり直し)の開始決定を出して、1年が経った。

 静岡県で一家4人が殺害された「袴田事件」の容疑者として身柄を拘束されて48年近く、最高裁で死刑判決が確定してからでも33年余。袴田さんは一貫して無実を訴えてきたにもかかわらず、死刑執行の恐怖にさらされ続けた。そのために拘禁反応という精神障害を患い、釈放された今も会話はほとんど噛み合わない。冤罪の代償はあまりに大きく、自由の身になったからと言って手放しでは喜べない。

 こうした実情を無視するかのように、政府は再審開始決定からわずか3カ月後の昨年6月に1人の死刑を執行し、この刑を存置する姿勢を明確にした。

 その前の執行から半年空いたことを捉えて「冤罪を訴え続けてきた袴田さんに再審開始決定が出されたことで、死刑制度や冤罪に世論の関心が高まったことが影響したとみられる」(2014年6月26日・朝日新聞夕刊)とする報道もあった。しかし、再審開始決定を不服として東京高裁に即時抗告した法務当局が、そこまで深刻に受けとめたとは到底思えない。批判を浴びそうにないかどうか、少し様子を見ていただけだろう。事実、死刑は8月にも2人に執行されている。

 ところで、袴田事件の支援者の中には、死刑の存続自体は否定していない人もいる。私が関わっている支援団体も、活動目的に「死刑廃止」を掲げてはいない。共通しているのは、科された刑が何であろうとも袴田さんの無実を証明したい、という気持ちだけだ。

 しかし、袴田事件の再審開始決定によって「死刑にも誤判がある」、つまり「間違って死刑にされてしまうことがある」という恐ろしい事態が、改めてはっきりと現実のものとなった。「死刑」の存廃が問われるべきなのは当然の理だと思う。少なくとも、社会的・政治的にきちんと議論をするべきだろう。政府が死刑の執行を続けているのは、その芽を問答無用で潰していることに他ならない。

 死刑存廃の議論の素材になりそうなデータが最近、2つ公表された。それらを眺めながら、今後、死刑問題にアプローチするための論点を探ってみたい。

 1つは、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルが4月1日に発表した報告書「2014年の死刑判決と死刑執行」である。

 昨年1年間に世界で死刑を執行されたのは少なくとも607人で、前年より22%少なかった。イラン、サウジアラビア、イラクの3カ国で全体の72%を占めている。ただし、これには数千人ともされる中国や北朝鮮の数字が含まれていないから、世界で死刑執行が減ったとばかりも言いきれない。

 重視すべきは、世界198カ国・地域のうち、昨年1年間に死刑を執行したのが22カ国(中国、北朝鮮を含む)だった、という数字だろう。パキスタンやベラルーシなど7カ国が執行を再開したものの、バングラデシュ、クウェートなど7カ国が執行しなかったため総数では前年と同じで、20年前に比べると19カ国減っている。G8で執行したのは、3人の日本(前年比5人減)と35人のアメリカ(同4人減/執行州は7州で2州減)だけだった。

 記者会見したアムネスティのヤン・ヴェッツェル氏は「死刑はすでに過去のもの、というのが国際世論。日本は、残虐な刑罰をなくした『多数派』に移りたいのか、『少数派』に属し続けたいのか、自問すべきだ」と指摘した。死刑の継続は、EUはじめ死刑廃止国とのビジネスなどでマイナス要因となる可能性もあるから、世界の潮流は無視できない要素だろう。上川陽子法相は「国のあり方に関わることであり、(日本国民の)自らの問題だ」と発言しているらしいが…(1月28日付・朝日新聞朝刊)。

 同時に、会見で私が耳を傾けるべきだと感じたのは、死刑の「抑止力」についての言及だ。

 「殺人事件をはじめ犯罪の発生率に、死刑の存否は影響しない。統計的にも、死刑に抑止力の証拠はない」とヴェッツェル氏は強調した。根拠として、死刑を廃止した香港と執行を続けているシンガポールとを比べた調査で、死刑と犯罪発生率との間に関連が見られなかったことなどを挙げた。そして、犯罪の発生を抑えるためには死刑に頼るのではなく、「より適切な警察活動と司法制度によるべきだし、貧困など犯罪の根本原因の対策をするべきだ」と提唱した。

 死刑の抑止力〜死刑によって犯罪、とくに殺人事件の発生を抑えられるのか〜は、その存否を考えるうえで大きな視座になるに違いあるまい。日本の事情を踏まえて、科学的な分析がなされるべきだと思う。

 もう1つのデータは、内閣府による死刑制度についての世論調査である。昨年11月に全国3000人を対象に実施。1826人(60.9%)から有効回答を得て、今年1月に結果が発表された。

 死刑制度について、「死刑もやむを得ない」を選んだのは80.3%。5年前の前回調査(選択肢は「場合によっては死刑もやむを得ない」)から5.3ポイント減少した。理由としては、「死刑を廃止すれば被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」(53.4%)、「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」(52.9%)の順だった(複数回答)。

 「死刑は廃止すべきである」は9.7%で、前回調査(選択肢は「どんな場合でも死刑は廃止すべきである」)から4.0ポイント増加した。理由では、「裁判に誤りがあったとき死刑にしてしまうと取り返しがつかない」(46.6%)、「生かしておいて罪の償いをさせた方がよい」(41.6%)の順で、冤罪への心配が最多だった。

 「死刑がなくなった場合、凶悪な犯罪が増えると思うか」との問いに対しては、「増える」が57.7%、「増えない」が14.3%。死刑廃止派にとっては前述した通り、科学的なデータをもとに死刑に抑止力がないことを丁寧に説明していく必要が浮き彫りになっている。

 で、私が最も注目したのは、「仮釈放のない『終身刑』が新たに導入されるならば、死刑を廃止する方がよいと思いますか」との設問だ。「廃止しない方がよい」が51.5%を占める一方で、「廃止する方がよい」も37.7%あった。

 終身刑については、日本弁護士連合会(日弁連)の死刑廃止検討委員会がアメリカでの導入例をもとに「死刑の代替刑として一定の機能を果たす」と評価しており、超党派の国会議員でつくる死刑廃止議連の亀井静香会長(衆院議員)も推進する考えを表明している。

 社会復帰の希望が全くないため「かえって残虐な刑罰になる」との見方や、有期刑が終身刑にシフトして厳罰化が進むといった懸念もあるが、死刑の存廃をめぐる議論の大きな糸口になるのは確かだろう(拙稿「死刑の廃止に向けて『終身刑』を導入することの是非」をご参照ください)。

 最後にもう1点。

 アムネスティのヴェッツェル氏は「アメリカでは、死刑の透明性が上がるにつれ、つまり情報の公開が進むにつれ、死刑の支持率は下がっている」と話していた。国民が議論する当然の前提として、日本でも死刑囚の処遇、死刑執行の状況をはじめ政府が可能な限り情報を出すよう求めたい。

 袴田さんを支え続け、今は一緒に暮らす姉の秀子さん(82歳)によると、釈放当時は表情が能面のようだった巖さんが、最近はニコニコと笑ったりするようになったという。そんな中で「死刑は絶対反対」と漏らすことがあるそうだ。「よほど拘置所で嫌な思いをしていたのでしょう」と弟の幽閉生活を慮っている。

 拘置所で巖さんに何があったのか、保佐人となった秀子さんにも知る術はない。巖さんが面会を拒否していた(これもどこまで本人の意思なのかは分からない)時期もあったから、秀子さんは弟の健康状態さえ把握できずに心配を募らせるばかりだった。たとえば、袴田さんのケースをもとに死刑囚の処遇の問題点を具体的に論じていくのが、分かりやすい方法かもしれない。

 袴田事件の教訓に真摯に向き合い、二度と同様の冤罪被害者を出さないためにも、今こそオープンな死刑論議が求められている。私たち市民が無関心でいてはいけないことは、言うまでもない。
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